鉄道は社会を一変させた

第三項 線路は続くよ
 鉄道建設は、殖産興業により西欧列強に伍するために、重要な国策のひとつであった。東京と京都・大坂を結ぶ当初の計画では、海防という観点から中山道を通すものであった。そうなっていたとしたら、現在の日本の姿もずいぶん変わっていたであろう。

 鉄道が開通するまでは、庶民にとって移動手段といえば徒歩であった。現在のヤマハを創業した山葉寅楠は、試作したオルガンを河合喜三郎と天秤棒を担ぎ東京まで運んだという説もある。
 東海道鉄道が全線開通するのは明治22年(1889)である。その前年に名古屋方面へは部分開業していたが、天竜川の架橋工事などが長引いたことによる。浜名湖今切の架橋も当時としては難工事であったであろう。
 浜松駅(停車場、ステンショとも呼ばれた)は、田んぼの中に造られ民家もまばらであった。用地買収する際に、費用面から開発されていない場所を選んだことによるものである。煙突から火の粉が飛んで火事になることを恐れ、反対するところもあった。
 停車場前には大米屋や花屋支店などの大手旅館が進出した。大米屋と花屋は東海道筋の伝馬町に本店があったが、人の流れの変化により駅前に立地したものだ。現在の広小路の東側には倉庫群ができ、馬車などが通行した。そのため秣(まぐさ、馬草)通りと呼ばれていた。
 開設当初の東海道線は単線であり、複線化するのは十数年後のことだ。また、当初は上り・下りとも一日各三本であった。明治21年の浜松駅開業時には名古屋までの運行で、所要時間は三時間五三分。当時の乗車賃は下等76銭、中等1円70銭であった。翌年に新橋~神戸間の全線が開通した。浜松駅から新橋駅まで九時間五分かかった。ただし、それまでは徒歩で半月を要したことからすると、まさに文明の利器であった。
 天竜川駅は、材木などの運搬を目的として設置された貨物取扱所であり、明治25年に開業した。客車が停車するようになったのは、その6年後のことだ。
 天竜川駅からは、かつて日本通運の引込線やヤマハ天竜工場へ続く専用線、鈴与専用線があった。貨物の取扱量は、浜松駅をはるかに凌ぐものであったというから、この地が製材や楽器産業でいかに栄えていたかを物語る。
 鉄道唱歌は、第一集の「東海道篇」が明治33年につくられた。作詞が大和田建樹、作曲は多 梅稚(おおのうめわか)など複数の人間が携わっている。全五集からなり、歌詞は全部で三三四番まである。浜松とその近郊は次のように歌われている。
 掛川袋井中泉 いつしかあとにはやなりて さかまき来る天竜の 川瀬の波に雪ぞ散る
 琴弾く風の浜松も 菜種に蝶の舞坂も うしろに走る愉快さを うたふか磯の波のこえ
 煙を水に横たえて 渡る浜名の橋の上 たもと涼しく吹く風に 夏ものこらずなりにけり
 左は入海しづかにて 空には富士の雪しろし 右は遠州洋ちかく 山なす波ぞ砕けちる
 さて、浜名湖の弁天島には東海道線の開通とともに、海水浴場が設けられた。弁天島駅は、明治39年7月11日の開業であり、当初は海水浴客のために夏季のみ臨時列車が停車した。当時は潮湯治といって、レジャーというよりも静養や治療が目的であった。その後、大正5年(1916)に常設駅となった。さらに新居町駅は明治41年、高塚駅は昭和4年にそれぞれ開業した。
 東京オリンピックの年、昭和39年に東海道新幹線が開業した。東京・新大阪間を4時間(ひかり)、浜松から東京へは2時間16分(こだま)で結び、これまでの所要時間を大幅に短縮した。国鉄(日本国有鉄道)の当初の計画では、新幹線駅はもっと南に位置していた。それを18万人もの市民の署名を集めて当局に働きかけをし、三百軒近くの家が移転して現在の位置となった。
 一方、浜松市は在来線となった東海道本線の高架事業にも取り組み、昭和54年10月に完成する。天竜川駅の西側から西貨物駅までの5.33㌔の区間で、これによりこの間の踏切がなくなった。特に浜松駅西側の平田(なめだ)の踏切は、開かずの踏切といわれてきたが、南北交通が確保され慢性的な渋滞が解消された。
 蛇足ながら、日本の鉄道の父と呼ばれるのが井上 勝で、長州五傑のひとり。長州藩士であり、首相となった伊藤博文らと英国へ密航し、ロンドン大学で鉱山技術や鉄道技術を学んだ。日本の鉄道の歴史は井上と共に始まる。井上は、後に鉄道長官や貴族院議員を務めた。


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