第二項 海の恵み
次は、浜松の海の幸を紹介する。浜名湖、遠州灘の恵みだ。浜名湖の魚介類が豊富でうまい理由については、コラムをお読みいただきたい。いずれにしろ、食べてもらえばうまさを実感していただけるであろう。
鰻は古くから食されてきた。エレキテルを発明した平賀源内も「鰻は滋養によい」と食べることを奨励したといわれる。もちろん明治期に養殖が始まる以前は、川や湖沼に生息する天然ものだ。鰻といえば、浜松・浜名湖の代名詞でもある。
こんなエピソードがある。サザンオールスターズの屋外ライブが浜名湖畔の弁天島渚園で行われた時のこと。二日間で10万人というファンが全国から押し寄せた。リーダーの桑田が「せっかく浜松に来たのだから、鰻を食べよう」と言ったとか。翌日、JR浜松駅の観光インフォメーションには「鰻のうまい店を教えて」という客が殺到したということを聞いた。浜松の鰻店の鰻がすべて消えるのに、そんなに時間はかからなかったであろう。
さて、鰻の生態はよく分かっていない。太平洋の南方海洋で産卵し、黒潮にのって稚魚が日本の沿岸にたどり着く。これがニホンウナギ(アンギラ・ジャポニカ)と命名されている種だ。このほか、ヨーロッパウナギ、アメリカウナギなどがある。
かつては浜名湖の沿岸で、夜、カンテラの灯を用意し網ですくえたものであった。ここ三〇年くらい、シラス・ウナギはめっきり減ってしまい、台湾や中国から輸入しているのが実状だ。浜名湖の沿岸部にたくさんあった養慢池も激減している。
関西では「マムシを食おうか」というので驚くが、鰻(まん)飯(めし)が訛(なま)ったものだという。調理の仕方も関東風と関西風に区分される。捌(さば)き方で、背に包丁を入れるのが関東で、腹開きするのが関西。関東では武士文化であろうか、腹開きは切腹に通じるので嫌うという通説がある。浜松は首都圏と関西圏の中間であるので、ほぼ半々といったところか。うなぎ職人の技量は「串打ち三年、割き八年、焼き一生」といわれる。それほど奥が深いのだ。
「どの店がうまいのか」という質問もよく受ける。個人的には教えるが、これは鰻名店ガイドを見ていただきたい。ひとつ言えることは、井戸を有する店を選ぶことをお勧めしたい。井戸水で活かしておくと泥臭さがなくなるからだ。もうひとつ、注文してから時間がかかる店ほどうまい。お客から注文を受けてから捌くのが本格派である。大きな声では言えないが、最近では白焼きしたものを仕入れている店もあるようだ。
遠州灘天然とらふぐ(虎河豚)もここ数年、鰻上りの人気である。海流の変化であろうか、遠州灘でもとらふぐが獲れるようになっていた。これまでは遠州灘産のものが下関に出荷されていた。まさに下関はふぐで売ってきた。もっとも地元の人たちは福にかけて「ふく」とにごらないのだそう。
ハモ(鱧)は、京都で夏の高級料理のひとつ。鴨川べりの料亭の川床(座敷)でいただくと風情があっていい。これまでは遠州灘で獲れたものが京都で消費されていたが、舘山寺温泉などで売り出し中である。
鰻、とらふぐ、ハモの浜名湖三兄弟ということでPRに力を入れている。