市内の中山間地には、古くから伝わる郷土芸能がある。これらには三河・信濃・遠江に共通する部分が多く、ひとつの文化圏を形成していたことをうかがわせる。
西浦(にしうれ)田楽は天竜区水窪町に伝わる民俗芸能で、その起こりは室町時代というから歴史は極めて古い。国の無形民俗文化財に指定されている。田楽は田植えに関わるものであり、五穀豊穣を祈願するまつりである。中国にも同じような舞があり、ルーツは朝鮮半島を経て伝わったものと考えられている。陰暦の正月一八日に西浦観音堂(天竜区水窪町)において行われる。能を舞う者は世襲制となっており、厳しい戒律があるという。
ひよんどりとは、火踊りがなまったものだという。やはり五穀豊穣を祈るまつりだ。寺野ひよんどりは、一月三日、宝蔵寺観音堂(北区引佐町渋川)で奉納される。起源は元亀元年(一五七〇)、寺野への入植が始まったころとされる。徳川家康が浜松城に入城したのと同じ時期だ。川名ひよんどりは同じく新年の一月四日に、福満寺薬師堂(北区引佐町川名)で行われる。本尊が応永33年(一四二六)の創建とされ、そのころに始まったものという。
このふたつのひよんどりは、国の無形民俗文化財に指定されている。
横尾歌舞伎は、引佐町横尾(北区)の農村歌舞伎が江戸時代から継承されてきたものである。静岡県指定の無形民俗文化財である。明治期くらいまでは、各村に芝居小屋があり農村歌舞伎が村の衆によって行われてきた。江戸期から中断されることなく継承されてきたことに価値がある。毎年10月に二日間かけて熱演が披露される。
引佐地区にはかつて一八の芝居小屋があったというから、その人気の高さがうかがえる。歌舞伎を上演する開明座が平成10年に竣工し、その隣には横尾歌舞伎資料館がある。
この他にも、滝沢の放歌踊り、川合花の舞、懐山のおくないなどがあり、伝統芸能の宝庫ともいえるほど多彩である。我われには、これらを後世に伝えていく責務がある。
浜松市は、市制百周年を記念していろいろな行事を行った。その名中で、「浜松市伝統芸能の集い」も行われた。この模様はDVDに制作されている。図書館で貸し出されているので、ぜひご覧いただきたい。ここに挙げた以外に、遠州大念仏、滝沢放歌踊りなども収録されている。