スーツが売れるまちに

 浜松では、スーツが売れないとよくいわれる。京都の着倒れ、大阪の食い倒れとも表現される。京都の人は着るものに金をかけ、大阪人は食べるものに金を惜しまないということを意味する。
 実際には家計調査の結果を見ても、そのように特徴的な数字は出てこない。
 さて、スーツが売れないと思われる要素はいくつかある。浜松は就業構造が第二次産業に特化しており、第三次産業の就業割合が相対的に低いということがある。
 パーソントリップ調査というのがあって、人がどのように移動しているかを知ることができる。浜松の場合は、製造工場が郊外にあり、郊外に住む人が郊外に立地する工場に車で通勤する。その場合の服装は、その企業の事務服・作業服であろう。したがってスーツを着る機会は比較的少ない。
 かつて軍都であった浜松は、将校などによる注文服の需要が高かったという。高級仕立服の老舗(しにせ)・英国屋もそのことがあって浜松に進出したという。
 以前、ある建設業の経営者から興味ある話を聞いたことがある。「会社の創立百周年にあたるので記念品を考えているが、タキシードにしようかと思う」、というのである。「そうすれば夫婦で着飾って街中に出掛けて、いい音楽を聴き、食事をしようとするであろう」と。中心街の活性化が叫ばれて久しいが、まったくその通りだと思った。
 スーツが売れる浜松にしなくてはいけないのだ。スーツを着よ、街へ出よ!


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